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ep.42 1年生

新校舎はピカピカで、部室は物置だった。

入学してから約9ヶ月間、僕たちが通っていた校舎は改修工事の真っ最中だった。授業を受けていたのは、校舎のすぐ隣に建てられた大きなプレハブの仮校舎だ。

プレハブとはいえ、そこで過ごす日々も悪くはなかった。けれど、すぐ隣で少しずつ出来上がっていく新校舎を外から眺めるたびに、「早くあの中に入りたいな」という思いが募っていた。

そして1年生も終わりに近づいた1月の冬休み明け。ついに改修が完了し、本校舎へ移る日がやってきた。 軽音部は「重い機材を運び込む」という名目で、一般の生徒たちよりも一足先に新校舎へ入る許可をもらった。

新しい扉を開けた瞬間、僕たちは思わず声を上げた。

「……うわ、ピカピカだ!」

廊下も、教室も、図書室も。すべてが新しく、および広い。 これまで9ヶ月間、天井の低いプレハブで過ごしてきた僕たちの目には、その空間は眩しいくらいに輝いて見えた。本格的な校舎に足を踏み入れて、ようやく「本当に高校生になったんだ」という実感が、これまでにないほど強く湧いてきた。

期待に胸を膨らませたまま、僕たちは新しく割り当てられた「定時制専用・軽音部の部室」へと向かった。 これまでは全日制の放送室を間借りしていたが、これからは僕たちだけの城が与えられるのだ。興奮を抑えきれない部員たちと一緒に、新しい部室の扉を開けた。

しかし、そこに広がっていた光景に、僕たちは言葉を失った。

「……まじか」

狭い。あまりにも狭かった。 機材をいくつか運び込んだら、人間が立つスペースすらなくなるような広さ。プレハブの放送室よりも確実に狭い。どう見ても「部室」ではなく、単なる「物置」だった。おそらく、設計上余ったスペースを、便宜上部室として割り当てたのだろう。

さっきまでの高揚感はどこへやら、部員たちの肩が一斉に落ちるのがわかった。 専用の居場所ができたのは嬉しい。けれど、ここでドラムを叩き、ギターをかき鳴らす練習なんて、物理的に不可能だ。

「板野さん、これ……どうします?」

1年生の後輩たちが不安げな顔で僕を見る。僕は、機材を置くのもやっとのその「物置」を見つめながら、静かに拳を握った。

「……今は、とりあえずここに機材を置こう。でも、ここで終わらせるつもりはないよ。すぐに先生と話をしてみる」

ピカピカの廊下の突き当たりにある、光も届かないような狭い部屋。 僕たちの「新校舎ライフ」は、期待していた華やかなスタートとは程遠い、あまりに窮屈な幕開けとなった。

けれど、僕は諦めるつもりなんて微塵もなかった。 物置を部室だと言い張る学校側に、僕は「大人の交渉」を仕掛けることに決めた。