12月24日、終業式の日。
冬休みを前に、年内の登校日を締めくくるイベントとして、軽音部のクリスマスライブが開催された。
会場はいつもの食堂。 本格的な機材は持ち込めないため、この日は特別な「アコースティック編成」だ。ドラムのひさとはカホンを叩き、僕とまさみはアコースティックギターを構える。文化祭のような爆音ではないけれど、木の楽器が響く温かい音が食堂を包んだ。
終業式の直後ということもあって、残っていた生徒のほとんどが足を止めて聴いてくれた。普段の部活動には興味を示さない子たちにも、僕たちの音が届いている。その手応えが嬉しかった。
ライブを終えて、少し火照った体のまま生徒会室へ戻ると、そこには黒茶先生が待っていた。
社会科担当の黒茶先生は、フルートが得意なとてもユニークな先生だ。この日の終業式でも全校生徒の前でフルートを披露していた。そんな先生が、真っ赤な衣装と大きなお菓子の袋を僕の前に差し出して、こう言った。
「板野くん。毎年この時期、サンタの格好でお菓子を配っているんだ。今年は、君にやってほしいんだよ」
断る理由なんて、どこにもなかった。 「わかりました、お任せください!」 僕は即座に着替えを済ませ、白い髭を蓄えた「サンタクロース」として、夜の校舎へと繰り出した。
反応は、予想以上だった。
「あ、会長がサンタになってる!」 「板野サンタだ! 写真撮りましょー!」
廊下を歩くたびに、あちこちから笑い声と歓声が上がる。 1年生から4年生まで、学年の壁なんて関係なく生徒たちが集まってきて、気づけば校内のあちこちで即席の撮影大会が始まった。
普段から給食の時間に積極的に声をかけてはいたけれど、この日は向こうから駆け寄ってきてくれる。袋からお菓子を取り出して手渡すたびに、みんなの笑顔が弾ける。その光景が、たまらなく嬉しかった。
この12月24日は、僕の誕生日でもある。 サンタの格好で大勢の生徒に囲まれながら、僕はふと、1年前の今日のことを思い出していた。
ちょうど1年前の今日。僕は大阪でトラックを走らせていた。さやちゃんに支えられながらも、将来への不安と焦燥感に包まれていた日々。31歳の誕生日の夜も、僕は一人、トラックのピッキング作業で夜遅くまで仕事をしていた。クリスマスイブの賑やかな街を横目に、重い荷物を運んでいた。
あの時の自分に、今のこの光景を教えてあげたい。
「1年後、お前は東京の高校でサンタになって、たくさんの仲間に囲まれながら32歳を迎えているぞ」と。
黒茶先生が、なぜこの役を僕に任せてくれたのか。 先生は多くを語らなかったけれど、あの衣装を手渡してくれた一言の裏には「もっとみんなと繋がってこい」という、静かなエールがあった気がする。
東京に来て、定時制高校に入って、生徒会長になって——。 あの0.1秒の決断がなければ、32歳の誕生日をサンタの格好で笑って過ごす未来なんて、絶対に訪れなかった。
想像もしなかった方向に、人生は転がっていく。 32歳の最高のスタート。お菓子の袋が軽くなったカバンを背負い、僕は少し冷たい夜の廊下を、温かい気持ちで歩き続けた。