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ep.39 1年生

チョコを配っていたら、さぼり常習犯の女の子2人に会った話。

甘いものは、普段あまり食べない。

でも、たまに体が欲することがある。そういう日はコンビニでチョコレートをいくつか買うのだが、家で一口食べると、それだけで満足してしまう。残ったチョコを持て余すのはもったいないので、学校で目についた先生や生徒に配るようにしていた。

これが、思いのほか喜ばれた。

定時制高校の生徒たちは、いつもお腹を空かせている。授業が終わる時間帯は夜で、給食は授業の前に出る。若くて代謝がいい彼らにとって、夜の時間は特にお腹が減るのだろう。チョコを一粒差し出すたびに「ありがとうございます!」とパッと明るい笑顔が返ってくる。それが嬉しくて、いつの間にか僕の習慣になっていた。

気づけば、僕は校内で「お菓子をくれるおじさん」として認識されるようになっていた。

廊下を歩いていると「あ、板野さんだ」と声をかけてくる生徒が目に見えて増えた。授業で一度も一緒になったことのない生徒まで、僕の顔を覚えてくれていた。名前を呼ばれるたびに、この学校に少しずつ自分の居場所ができていく確かな感覚があった。31歳という年齢の壁は、こうした小さなコミュニケーションの積み重ねで、ゆっくりと溶けていったのだと思う。

学校で顔を覚えてもらう、認識してもらうということは、僕が想像していた以上に大きな意味を持っていた。

入学して半年ほど経っているのに、これまで一度も見たことのない顔だった。廊下を歩いていると、見慣れない女の子が二人立っていた。

二人とも制服姿だった。この学校に制服の指定はないが、女の子の中には制服への憧れからか、制服に似た服を自分で揃えて通学している子がいる。彼女たちもまさにそのタイプだった。

ふと足元を見ると、上履きは赤色だった。 この学校では、履いている上履きの色で学年が判別できるようになっている。黄色は1年生、赤は2年生、緑は3年生、そして紺色が4年生。そのルールに照らせば、彼女たちは僕らより一つ上の2年生だ。

手元に余っていたチョコがあったので、いつものように差し出してみた。すると、二人は「えっ!」と顔を輝かせてチョコを受け取った。

あとで本人たちから直接聞いて、ようやく合点がいった。 彼女たちは学校をよくサボる「常習犯」で、だからこれまで一度も顔を合わせることがなかったのだ。

名前は「きょみぱん」と「さおり」。 まさに「ザ・女子高生」という華やかな雰囲気の二人だったが、僕の見立てでは、この二人こそが校内でも一、二を争うほど、美女たちだった。

聞いたところ、彼女たちはサボりの常習犯だったらしい

だから今まで見たことなかったのかと納得した。

この日はただチョコを一粒渡しただけで終わったが、二人は本当に嬉しそうに笑っていた。 後になって思う。何気なく差し出したあの一粒が、思いがけない縁に繋がっていくことがあるのだと。あの時、チョコを渡していなければ、この出会いも始まらなかったのかもしれない。