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ep.33 1年生

ハイキング部。

軽音部に続いて、僕は「ハイキング部」にも入部することにした。 この部活、顧問の先生が4人もいるという、なかなかに豪華な体制だ。

社会科の木内先生は、坊主頭でほっそりした方。国語科の山本先生は、白髪混じりのおじさんで、荷物が驚くほど少ないミニマリストだ。同じく国語科の芽衣先生は細身でメンタルが凄く強そうだし、保健室の花奈先生は、確実に僕より年下だが生徒たちにとても愛されている。

部員もまた個性的だ。 入学式で祝辞を述べた生徒会長のきみ先輩に、書記や会計を務めていた先輩たち。さらには廊下でダンスをしていたあかい先輩とひとみん先輩など、学年を超えていろいろな先輩方が在籍している。

31歳既婚者の僕が、一回り以上年下の世代に混じって歩く。 この学校に入っていなければ、まず接点を持つことすらなかったであろう交流だ。「おじさんの僕が入って大丈夫かな」という不安も少しあったけれど、いざ始まってみれば、みんな同じ「一人の生徒」として接してくれる居心地の良さがあった。適度な運動にもなるし、僕にとってはもってこいの部活動だった。

ハイキング部の活動は年に4、5回。 申し込みは出発の1ヶ月前くらいから行われる。活動は土曜日なのだが、前日の金曜日には必ず学校で事前ミーティングが開かれる。そこで目的地や行程、持ち物などをしっかり確認するのだ。

そして当日の土曜日は、早朝に最寄りのターミナル駅に集合。そこから電車に乗って目的地へ出発だ。

僕が初めて参加したハイキングの目的地は、横須賀だった。 この日、みんなで向かったのは三笠公園に鎮座する「記念艦 三笠」。 「ハイキング」という名の通り、特別な登山用品を揃えるような本格的なものではない。みんな普段通りの動きやすい服装にスニーカーという軽装だ。

巨大な戦艦の姿が見えてくると、10代の生徒たちに混じって僕も少しテンションが上がった。 実際に中に入って見学できるのだが、その圧倒的なスケール感と歴史の重みには驚かされた。狭い通路や急な階段、甲板から見える海。31歳の僕と、これから未来を創っていく10代の仲間たち。この巨大な船の上で一緒に景色を眺めている不思議な縁を、ふと感じたりした。

お昼は、お弁当を持参する子もいれば、現地のお店で食べる子もいる。 この日は、生徒会長のきみ先輩と書記の先輩、そして僕の3人で、カウンター席に並んで座って横須賀名物の大きなネイビーバーガーを食べた。

戦艦見学の興奮冷めやらぬまま、ずっしりと重いハンバーガーにかぶりつき、学校のことやこれからのこと、とりとめもない話を交わす。31歳のおじさんと、10代の会長・書記。役職こそ違えど、同じ「生徒会」の仲間として同じカウンターに肩を並べる時間は、驚くほど自然で、温かかった。

横須賀の街をみんなでのんびり歩きながら、僕はふと、これまでの自分の「移動」について考えていた。 10年間のトラックドライバー生活では、景色はいつもフロントガラス越し。時間は「削るもの」で、目的地へいかに早く着くかだけを考えてハンドルを握っていた。

けれど今は、仲間たちの話し声を聞きながら、一歩一歩自分の足でアスファルトを踏みしめている。道端の小さな看板に目を留めたり、潮の香りの変化に気づいたり。そんな当たり前のことが、31歳の僕にはとても新鮮で、贅沢な時間に感じられた。

だいたい15時ごろには帰りの電車に乗り、再び最寄りのターミナル駅へ。18時ごろに解散という流れだ。目的地は高尾山や太平山、渡良瀬遊水地、江の島など様々で、冬にはスキーやスノーボードに行くこともあった。

大人になってから手にした、新しい週末の過ごし方。 土曜日の心地よい疲れを感じながら、僕は充実した気持ちで家路についた。