15年ぶりの、定期考査。 31歳の僕にとって、それは「やり直す」と決めた自分への、最初の答え合わせ。
登校時間の1時間前。16時には学校に着く。 そのまま図書室へ向かい、隅っこの席を借りる。 この時間、図書室にはまだ全日制の生徒たちが残っている。 制服姿の彼らに混じり、静かにノートを開く。
勉強、というほど大げさなものではない。ただの復習だ。 毎日の授業を真面目に受けていれば、それで十分。 定時制の生徒は、まだ誰も来ない。 みんな、仕事やそれぞれの事情で登校はギリギリだ。 静寂の中、ペンを走らせる。
17時、登校時間が近づくにつれて、校内が少しずつ騒がしくなる。 17時25分。いつものように食堂で美味しい給食を済ませ、腹ごしらえを終える。
18時過ぎ。試験開始10分前の教室へ移動する。 そこは、先ほどまでの図書室の静寂とは正反対の熱気に包まれていた。
「やばい、全然覚えてない!」 「ここ、テストに出るって言ってた?」 10代のクラスメートたちが、試験前のわずかな時間にすべてを賭けていた。 まさに、試験直前になってから慌てて知識を詰め込む、必死の悪あがきだった。
その光景を眺めながら、僕はふと思った。 15歳の頃の僕は、こんな「悪あがき」すらしていなかったな、と。 テストの結果なんてどうでもよかったし、学校そのものに背を向けていたからだ。 必死にノートを捲る彼らの姿は、すべてを投げ出していたかつての僕よりも、ずっと真っ直ぐにこの場所と向き合っているように見えた。
18時10分。チャイムが鳴り、試験が始まる。 定時制の試験は、教科によっては「手書きのノートメモ」のみ持ち込みが許されていた。 全日制とは違う、独特なルール。 一見甘く見えるが、実はこれこそが「教育」なのだと気づく。
何を、どう、どこに書き留めるか。 手書きのメモを作るためには、内容を理解し、整理しなければならない。 その過程こそが、結果的に「勉強」になる。 ここには、勉強のやり方も、勉強をする意味もわからないまま辿り着いた子たちがいる。 かつての僕が、そうだったように。 先生はメモを許すことで、彼らに「学び方」を教えていた。
鉛筆が、驚くほどスラスラと動く。 準備をしてきた分、迷いがない。 解答欄が、次々と埋まっていく。 かつての自分が残した「空欄」を、一つひとつ塗りつぶしていくような感覚。
試験を終え、夜の廊下に出る。 「終わったー!」とはしゃぐ彼らの背中を追い、僕も下駄箱へ向かう。 やり切った、という静かな手応えだけが胸にあった。
夜の校舎。 31歳の僕の成績表に、最初の「結果」が刻まれようとしていた。