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ep.20 1年生

いつもフードをかぶっている同級生と、一緒に帰った夜。

廊下や食堂で見かけるたびに、気になっている生徒がいた。 四月の暖かくなり始めた校内でも、彼はいつもパーカーのフードを深く、目深にすっぽりとかぶっている。その徹底した様子に、僕は一方的に「変わった子がいるな」と視線を送っていた。

そんな彼と初めて言葉を交わしたのは、ある日の授業終わりのことだった。

夜の廊下へ出ると、隣のクラスの担任であるユウ先生が、そのフードの彼と話し込んでいるのが見えた。その横を通り過ぎようとしたとき、ユウ先生に不意に呼び止められた。

「あ、板野くん。ちょっと紹介させてよ」

先生の隣にいたのが、あの彼だった。名前は「しょう」というらしい。 間近で見ても、やはりフードは脱がないままだ。挨拶を交わして少し言葉を交わしただけだったが、しょうくんは初対面の僕に対して、意外な提案をしてきた。

「あの、もしよかったら、一緒に駅まで帰りませんか?」

丁寧な敬語ではあるけれど、どこか馴れ馴れしいというか、初対面とは思えない独特の距離の詰め方だった。僕は少し驚きながらも、その人懐っこさがなんだか面白くて、「いいよ、行こうか」と二つ返事で頷いた。

夜の静かな駅道を、二人で歩き出す。 街灯の下を歩きながら、僕は前々から気になっていたことを聞いてみた。

「しょうくん、どうしていつもフードをかぶっているの?」

失礼かな、とも思ったけれど、彼は隠す様子もなくあっさりとその理由を教えてくれた。

「あぁ、これですか。実は僕、肌が敏感で、風が当たるだけで激痛が走る病気を持っているんですよ」

聞けば、ストレスが主な原因らしい。特に右半身の感覚が過敏になっていて、軽く指で触れられるだけでも耐えがたい痛みが出るのだという。 だから外に出るときは、少しの風も当たらないように、いつもフードで顔や体を覆って自分を守っているのだ。

「年中この格好で歩いているから、よくお巡りさんに職務質問(職質)されるんですよね」

彼は、どこか自分を笑うような感じでそう付け加えた。 職質されるのが日常茶飯事だなんて、僕のこれまでの人生では想像もつかないことだった。

世の中には、僕の知らない病気や苦しみがたくさんある。 しょうくんの話を聞きながら、僕は改めてその事実を突きつけられた気がした。

15歳の彼が、どれほどのストレスを抱え、どんな「痛み」と戦いながらこの学校に辿り着いたのか。僕にはすべてを理解することはできないけれど、ただ、願わずにはいられなかった。

「この学校が、彼にとって少しでも心が休まる場所になればいいな」

駅の改札を一緒に通り、僕たちは同じ電車に乗り込んだ。 この路線は途中から地下鉄へと乗り入れる。地上を走っている間は、窓の外に夜の街並みが流れていた。ガタゴトと揺れる車内、吊革に掴まって並んで立ちながら、他愛もない話を続けた。

やがて、途中の駅で電車が止まった。 「じゃあ、僕ここで降りるんで。また明日!」 「おう、また明日な」

彼が先にホームへと降り、階段の向こうへ消えていく。 一人残された車内で、僕は彼の言葉を何度も思い出していた。

電車が地下へと潜り、窓の外が真っ暗な壁に変わる。 僕がやり直すために選んだこの場所は、きっと誰かにとっても、痛みを和らげ、自分を取り戻すためのシェルターのような場所なのかもしれない。

地下鉄の暗い車窓に映る自分の顔を見つめながら、僕は新しい「一歩」の重みを噛み締めていた。