美味しい給食でお腹を満たし、教室に戻って前野先生による一通りのガイダンスが終わると、その日は解散になった。
初登校の緊張感からか、教室にはまだどこかよそよそしい空気が漂っている。そのまま真っ直ぐ帰るのも少し物足りない気がして、僕は後ろの席の子に声をかけてみることにした。
入学式の時、僕の隣に座っていた、あの小柄でかわいらしい「みつき」くんだ。
「お疲れ様。……みつきくん、だよね?」
僕が声をかけると、みつきくんは少し緊張しながらも応じてくれた。そこへ、同じクラスの「まさみ」くん、そして給食の時に僕の隣に座っていたあの子——「さやと」くんが近づいてきた。どうやらこの3人は同じ中学の出身らしい。
最初は、僕が彼らの輪に少しお邪魔するような、なんとも言えない距離感の会話から始まった。彼らは僕が年上だと察してか、どこか敬語を崩せないでいるし、僕も彼らの中学時代の思い出話を、ただ頷きながら聞く側に回っていた。
3人と話しながら、僕はふと彼らの顔をまじまじと見てしまった。 ……肌が、驚くほどツヤツヤしている。 15歳。自分がその年齢だった頃のことを思い出そうとしたけれど、あまりに遠すぎてうまく重ならない。眩しいほどの若さが、そこにはあった。
しばらく談笑していたが、ふいにみつきくんが僕の目を見て、少し真面目な顔で聞いてきた。
「あの……板野さんって、何歳なんですか?」
ついに来たか、と思った。 給食の時に「聞かれない限りは黙っておこう」と決めたばかりだったけれど、こうして真っ直ぐに聞かれた以上、嘘をつく理由もない。僕は少しだけ呼吸を整えて、明るく答えた。
「31歳だ!」
その瞬間、僕たちの周りの空気が、ピタッと止まった。
みつきくんも、まさみくんも。 まるで時間が静止したかのように、口を半開きにしたまま固まっている。 その中で、給食の時に隣に座ったさやとくんだけは、顔を真っ赤にして激しく動揺し始めた。
「……やっぱり! 絶対に年上だなとは思ったんですよ!」
みつきくんが絞り出すように言う。やっぱり、薄々気づいてはいたようだ。 すると、さやとくんが申し訳なさそうに、消え入りそうな声で口を開いた。
「えっ……31歳……。やばい、僕、さっきの給食のとき……」
彼は、さっきの給食の時に僕が「よろしくな!」と声をかけた時に、同年代だと思い込んで「よろしく」とごく普通に返してしまったことを、本気で申し訳なく感じているようだった。
「すみません、あんなタメ口(普通)で返しちゃって……。僕、てっきり同じくらいの子かと……」
あまりに律儀に恐縮する彼を見て、僕は思わず笑ってしまった。
「いやいや、謝らないでよ。それが嬉しかったんだから。これからもその感じで頼むよ」
さやとくんの反応は、僕にとって最高の誉め言葉だった。 31歳のおじさんが、15歳の少年に「同い年だと思った」と言われる。それは、僕が彼らの世界に一歩踏込めた証拠のように思えたからだ。
年齢を明かしたことで、僕の中にあった小さな壁が一つ崩れた。 変に若作りをする必要も、隠し事をする必要もない。
31歳の板野秀一。 15歳の仲間たち。
「おじさん」と「中卒あがりの15歳」という、この奇妙であべこべな関係が、美味しい給食と、少し気まずい告白をきっかけに、本格的に動き出していく。