4月8日。僕は15年ぶり、人生で2度目の「入学式」を迎えた。
会場は学校の体育館ではなく、近くの文化ホールだった。体育館が改修工事中のためらしい。あやちゃんと並んで会場に向かいながら、僕はなんとも言えない不思議な高揚感の中にいた。
15年前、一度目の入学式の時は、地元の友達と連れ立って、どこか遊びの延長のような、浮ついた気持ちでここに来た。 けれど今日は、自分の意思で、それも僕を信じて支えてくれる妻と一緒にこの道を歩いている。
会場に着いて周りを見渡すと、新入生に付き添っているのは、ほぼ全員が親御さんだった。当然だ。そこにいるのは、つい先月まで中学生だった15歳の子どもたちなのだから。
その中で、ひとりだけ「配偶者」を連れてきた生徒。客観的に見れば異様な光景かもしれないが、僕の中ではそれがなんだか可笑しくて、誇らしかった。
受付で名前を確認してもらっていると、目の前に一人の男性が現れた。 ビシッとスーツを着こなしてはいるが、肌はこんがりと焼け、どこかチャラそうな、夜の街を歩いていそうな雰囲気を漂わせている。
その男性は僕の顔をじっと見ると、合点がいったというようにこう言った。
「あぁ、君が板野くんか」
「……あ、はい。そうです」
「私が担任の前原です」
……これが、僕の担任か。 先生はあらかじめ、自分のクラスに「31歳の新入生」がいることを把握していたのだろう。その言い方には、驚きというよりは、どこか面白がっているような響きがあった。
人は見かけで判断してはいけないと分かってはいるけれど、街ですれ違っても、この人が学校の先生だとはまず気づかないだろう。これから4年間お世話になる、僕の「最初の先生」との出会いだった。
「よろしくお願いします」
僕は頭を下げ、会場内へと足を踏み入れた。
式が始まり、指定された席に座る。 隣には、小柄でかわいらしい少年が座っていた。先月まで中学生だったのだから、僕から見れば子どものような年齢だ。この子と同じクラスで、同じ時間を過ごすことになるのか。改めて、自分の選んだ道の「あべこべ感」を肌で感じた。
式は厳かに進み、校長の挨拶、それから生徒会長が慣れた様子で祝辞を述べた。 やがて、新入生の名前が一人ずつ順番に呼ばれていく。
「……佐藤くん」 「(……はい)」 「……鈴木さん」 「(はい……)」
みんな、返事が驚くほど小さい。 15歳の繊細な時期だ。恥ずかしいのか、それとも緊張しているのか、聞こえるか聞こえないかのような声だったり、中には無言のまま立ち上がる子もいた。
その後も淡々と点呼が続き、ついに僕の番が来た。
「……板野秀一くん」
静まり返ったホールに、僕の声が響いた。
「はい!!」
できるだけ大きく、はっきりと。腹の底から発声した。
周りの生徒たちが、驚いたように一斉に僕を振り返ったのが分かった。 「あいつ、なんだ?」という戸惑いの視線。けれど、僕は構わなかった。
きっかけは、あやちゃんママがくれた一言だった。 自分一人では、この道に気づくことすらできなかったかもしれない。 誰かに背中を押され、導かれるようにしてここに辿り着いた。
けれど、最後に「行く」と決めたのは、僕自身だ。 誰に強制されたわけでもなく、自分の意志でこの場所を選び、自分の足でこの切符を掴み取ったんだ。
その誇りと覚悟を、たった二文字の返事に込めた。 15年前に投げ出した自分への決別と、これから始まる4年間への決意表明。
31歳の「1年生」。 「やってやるぞ」という思いを込めたこの返事とともに、僕の新しい人生が動き出した。