入学を前に、学校で体操着と上履きのサイズ合わせが行われた。
指定された日に学校へ行くと、体育館には販売業者のお姉さんが来ていて、生徒一人ひとりのサイズを見立ててくれるシステムになっていた。僕の周りに並んでいるのは、当然ながら先月まで中学生だった15歳の子たちばかりだ。
その瑞々しい若者たちの列に、31歳のおじさんが一人、明らかに一人だけ浮きまくった状態で並んでいる。
まずは体操着の試着から始まった。 僕たちの学校の指定ジャージは、緑色だった。 これがまた、なんとも言えない絶妙な「ダサさ」なのだ。鮮やかでもなければ渋いわけでもない、ただただ主張のない、微妙な色合いの緑。
「あぁ、これから4年間、これを着て授業を受けるのか……」
鏡に映る緑色の自分を見つめながら、僕は少しだけ遠い目になった。
とりあえずXLサイズを試着してみたが、今の僕には少しぶかぶかだった。動きやすさを考えて、僕は一つ下のサイズを希望した。
「Lサイズでお願いします」
すると、採寸をしていたお姉さんが、さも当たり前のような顔でこう言った。
「どうせすぐ大きくなるんだから、大きめにしておいたほうがいいよ」
僕は内心、激しくツッコミを入れた。 (いや、流石にもう成長しないと思うけど!)
普段から実年齢よりは若く見られることが多い。でも、さすがに10代に間違えられることはない……はずだ。このお姉さんは、本気で僕を「これから背が伸びる育ち盛りの高校生」だと思っているのだろうか。
「あの、たぶんもう成長しないと思います」
食い下がってみたが、お姉さんは慣れた手つきでXLの袋を手に取り、プロの確信に満ちた笑顔でこう畳み掛けてきた。
「大丈夫、すぐ大きくなるんだから。XLにしときなさいって」
「……わかりました」
その圧倒的な「お母さん感」というか、業者としての揺るぎないマインドに押し切られ、僕はXLサイズを購入することになった。
大きめのジャージを抱え、帰り道を歩きながらふと思った。
たしかに、縦にはもう伸びないだろう。けれど、あやちゃんの実家での穏やかな生活と、僕が作る毎晩の夕食。そんな日々の中で、本当に横には「成長」してしまうかもしれない。
後日談になるが、高校生活が始まると、僕の予想通り(?)体重は少し増えた。 けれど、結局卒業するまで、あの時のお姉さんが予言した「XLがぴったりになる日」が来ることはなかった。
結局、4年間の高校生活を、僕は少しぶかぶかな緑色のジャージを着て過ごすことになった。鏡を見るたびに、あの日のお姉さんの自信満々な笑顔を思い出し、僕は少しだけ苦笑いするのだった。