履歴書の学歴欄を書くたびに、僕の指先は止まった。
小学校卒業、中学校卒業。 そこで終わっている。高校の欄は空白のまま。職歴だけは10年と長い。でも、学歴だけを見れば、15年前から何も変わっていない30歳の男がそこにいた。
東京に来てから、いくつもの面接を受けた。事務、販売、サービス業。 「今度こそ別の道に進みたい」と願って挑んでいたけれど、どこも通らなかった。落ち続けるうちに「この世界に、自分は必要ないのかもしれない」という感覚が、じわじわと育っていった。
「……もう、トラックに乗るしかないのか」
不本意だった。またあの過酷な日常に戻るのは、正直嫌だった。でも、どこに行っても断られる今の僕には、選択肢なんて残されていなかった。泣く泣く、僕は唯一の経験であるトラック運送会社の面接を受けた。
運転歴は10年以上ある。大型ではないけれど、ずっとハンドルは握り続けてきた。これだけは受かる、と思っていた。
けれど、結果は「不採用」だった。
あの時の感覚は、今でも覚えている。 10年間、睡眠不足や腰痛に耐えて、這いながらでも現場を支えてきた。それが全部、何の意味もなかったのか。嫌だった過去の自分にすら戻らせてもらえない。唯一の武器だと思っていたキャリアさえも否定され、僕は本当のどん底にいた。
そんなある日、あやちゃんパパとママと一緒に、愛犬の「リープ」の散歩に出かけた。 真っ白で大きなグレートピレニーズのリープを連れて、三人で歩く。居候の僕を温かく受け入れてくれる二人とリープとのこの時間は、僕にとって数少ない安らぎだった。
散歩の途中か、あるいは帰った後だったか。他愛もない話をしていたとき、あやちゃんママがふと言った。
「ねぇ、秀一くん。近くに定時制の高校があるから、行ってみたらどうかしら?」
思いもよらない一言だった。
正直に言えば、頭の中で最初に浮かんだのは「今さら」という言葉だった。 でも、学校に行きたいという気持ちが全くなかったわけではない。むしろ逆で、ずっと心のどこかにあった。
「宝くじが当たったら、学校に行って勉強したいな」
かつてあやちゃんに、そんな冗談を言ったことがあるくらいだ。時間とお金さえあればという夢は、ずっと持っていた。
けれど、現実が目の前にある。 30歳の無職が、今から4年間も学校に通えるのか。卒業する頃には35歳だ。それからどうする。その先が、まったく見えなかった。