Re:31歳、高校生活はじめました
← もどる
ep.10 高校入学前

HPら、由」た。

あやちゃんママのあの一言が頭から離れないまま、僕はパソコンを開いた。

「定時制高校」

検索窓に打ち込む。どんな学校があるのか。授業は何時から始まるのか。学費はいくらかかるのか。そして何より、30代で通っている人なんて本当にいるのか。気になることを片っ端から調べた。

調べれば調べるほど、新しい疑問が次々と浮かんでくる。画面をスクロールしながら、僕はふと、あることに気がついた。

あれ、僕は「行かない理由」を探しているんじゃないか?

ハッとした。

夜間だから昼間は仕事ができるし、調べてみると30代やもっと上の世代で通っている人の体験談も見つかる。さらに驚いたのは、今の制度では学費が無償化されていたことだ。僕が現役で高校に通っていた15年前には考えられなかったことで、これは素直に有り難いと思った。

客観的に見れば、通うための障壁はそれほど高くない。 それなのに、僕の頭は「でも」「だって」「今さら」という言葉を必死に探し続けていた。

「もしクラスメイトと馴染めなかったら?」 「4年間も通い続けられる体力が残っているのか?」 「卒業しても、その時僕は35歳だ。そこから何ができる?」

前向きにリサーチしているふりをして、実は「やっぱり無理だ」と諦めるための言い訳を、一つずつ積み上げようとしていたのだ。

それに気づいた瞬間、なんだか無性に自分自身が悔しくなった。 また後ろ向きになっている。自分を変えたくて、何かを成し遂げたくて、わざわざ大阪から東京まで来たんじゃなかったのか。

その夜。僕は隣にいたあやちゃんに、静かに切り出した。

「高校、行ってみようかな」

これからどう生きていこうか、というとりとめもない話の流れだった。改まった感じではなく、自分の中に溜まっていた思いが、ぽつりとこぼれ落ちたような感じだった。

言いながら、答えはもう分かっていた。あやちゃんがどう返すか、聞く前から見えていた気がする。

「いいんじゃない。行ったらいいよ」

予想通りの言葉だった。でも、やっぱり嬉しかった。

あやちゃんはいつもそうだ。「どうしようかな」と迷っている僕に、余計なことを言わず、ただ背中を押してくれる。反対されたことも、否定されたことも、ない。

「シュウくんが思ったようにすればいい」

それが、あやちゃんのスタンスだ。ただ黙って僕のことを信じ、見守ってくれている。そのシンプルな言葉が、どれだけ僕を動かしてきたかわからない。

職業訓練校に落ちたとき、僕は「きっともっと良い道へ導かれているんだ」と直感した。あやちゃんママの提案も、あやちゃんのこの快諾も、すべてが僕を「本当の道」へと押し出してくれているような気がした。

行かない理由を探すのは、もうおしまいだ。 30歳の夏。僕は15年ぶりに「学生」に戻るための、小さな、けれど決定的な一歩を踏まえることにした。

つづく →