Re:31歳、高校生活はじめました
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エピソード08

30歳・無職・東京。プログラマーを目指した、無謀な新生活

iPhoneを初めて手にしたとき、未来が見えた気がした。

画面をタップするだけで何でもできる。地図、音楽、ゲーム、買い物。小さな板の中に、世界が詰まっていた。「これからはこういう時代になる」と直感した。そして同時にこう思った。「このアプリを作る側になれたら、食っていけるんじゃないか。」

東京での新生活が始まった頃、僕の頭の中にあったのはその一点だった。スマホアプリの開発者になる。それが、無職の30歳が立てた人生の再建計画だった。

あやちゃんの実家にお世話になりながら、僕は毎日プログラミングの本を読んでいた。肩身の狭さは不思議となかった。あやちゃんのご両親は何も言わなかったし、あやちゃんも責めなかった。ただ、自分の中に「早くなんとかしないと」という焦りはじわじわとあった。いつまでもこのままではいられない。結果を出さなければ、という気持ちだけが、毎朝起きるたびに少しずつ大きくなっていった。

失業手当をもらいながら勉強して、アプリを作って、それを引っさげて就職活動をすればうまくいく。そんな計画を、僕は本気で信じていた。

現実は、1週間で終わった。

当時のiPhoneアプリ開発に使われていた言語は「Objective-C」というものだった。後にSwiftという言語に置き換わるのだが、このObjective-Cというのがとにかく難解で、プログラミング未経験者が独学で習得できるような代物ではなかった。本を読んでコードを打ち込めば、簡単なプログラムは動く。でも、それは本に書いてある通りにやっただけだ。何がどうなってそう動くのかが、まったく理解できなかった。

1週間後、静かに本を閉じた。

諦めた、というより、これは自分には無理だという結論が出た、という感じだった。向いていないことを続けるのは時間の無駄だ。そう自分に言い聞かせたが、心のどこかに「また何もできなかった」という感覚が残った。