仕事を終えて家に帰ると、あやちゃんが神妙な顔で待っていた。
「話がある」
その一言で、何か良くないことが起きたのかと身構えた。テーブルを挟んで向かい合い、あやちゃんはゆっくり口を開いた。
「会社から、東京支店に戻ってこないかって言われた。どうしよう。」
一瞬で、頭の中に答えが出た。
「東京行こ。」
あやちゃんは目を丸くした。「え、ほんとにいいの?」
「いいよ、行こう。」
戸惑いながらも嬉しそうな顔になったあやちゃんを見て、これで良かったんだと思った。迷いは、本当になかった。
トラックドライバーという仕事は、どこへ行ってもできる。大阪でも東京でも、荷物を積んで走ることに変わりはない。それに、転職を考えていたちょうどその頃だったので、東京という新しい土地でゼロから始めることへの不安よりも、むしろ胸が高鳴る感覚の方がずっと大きかった。
大阪を離れることへの寂しさは、正直あまりなかった。友人のことは気がかりだったが、「行ってみたい」という好奇心と「ここではないどこかで何かが変わるかもしれない」という期待が、それを上回っていた。
ラジオから流れてきたゆずの歌が頭の片隅に引っかかり始めてから、ずっとくすぶっていた気持ちがあった。このままではいけない、何かを変えなければ、という焦りだ。あやちゃんの転勤話は、まさにそのタイミングで飛び込んできた。
これはチャンスだ、と思った。直感だったが、確信もあった。