Re:31歳、高校生活はじめました
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ep.03 高校入学前

と。

気づいたら、目的地に着いていた。

運転している記憶が、まるでない。さっきまで出発地点の倉庫で伝票を確認していたはずなのに、いつの間にかトラックは目的地のすぐ近くを走っている。頭の中に濃い霧がかかったような状態で、自分がハンドルを握っていたのか、ブレーキを踏んでいたのかすら曖昧だった。

プロのドライバーの間で「ワープ」と呼ばれるこの現象。当時の僕には、それが日常的に起こっていた。

29歳、僕の1日はおよそ人間らしいものとは言えなかった。 朝7時に運送会社を出発して、夜8時に帰宅。急いで食事と風呂を済ませると、夜11時から朝4時までは実家の仕事である新聞配送に出る。家に戻り、ようやく布団に潜り込めるのは朝4時半。そこからわずか3時間の仮眠を取り、また朝7時には本業のトラックに向かう。

これが、僕の毎日だった。 慢性的な睡眠不足が数ヶ月、数年と続くと、人間の感覚は少しずつ、だが確実に麻痺していく。自分が今、眠いのか、それとも起きているのか。疲れているのか、感覚が死んでいるだけなのか。脳が発する悲鳴すら、遠くのノイズのようにしか聞こえなくなっていた。

その夜も、意識はどこか遠くを漂っていたのだと思う。

「ドンッ!!」

心臓を直接殴られたような衝撃音が響いた瞬間、僕の体は宙に浮いた。 ガガガッ、という金属がアスファルトを削る不快な音が深夜の静寂を切り裂く。シートベルトが肩に強く食い込み、強引に僕の体を座席へと引き留めた。

激しい揺れと衝撃が収まった後に、ようやく気がついた。 トラックが、中央分離帯に突っ込んでいた。

時計は、明け方の4時を指そうとしていた。 幸いなことに交通量はほとんどなく、他の車や歩行者を巻き込むことはなかった。震える手でハンドルを回し、何とか路肩にトラックを寄せてエンジンを切る。

車外に出ると、冷え切った明け方の空気が肺の奥まで染みた。 足元を見ると、右側のタイヤが無残にバーストしている。ホイールは無残に歪み、とてもタイヤ交換だけで済む状態ではなかった。

路肩に座り込み、自嘲気味に笑うしかなかった。 「死ぬところだったんだな、僕は」

その日は仕事を休み、トラックを修理に出した。 バーストしたタイヤと歪んだホイール。それは、29歳という、30歳を目前にした時期に立っていた僕の人生そのものが、すでに限界を超えて破綻していることを、何よりも雄弁に物語っていた。

このままでは、いつか本当に取り返しのつかないことになる。 事故の衝撃の中で、僕は止まってしまった時計をもう一度動かすための、本当の「恐怖」を味わっていた。

つづく →