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ep.49 1年生

オール5、皆勤賞。32年間で、初めてのことだった。

1年生の締めくくり。教室で、最後の一枚となる通知表が配られる時間がやってきた。

担任の前野先生が、教卓で一人ひとりの名前を呼んでいく。 「……板野」 自分の名前を呼ばれ、僕は席を立って教卓へと向かった。

先生の前に立ったその瞬間だった。 先生が僕のほうへ差し出した通知表は、すでにパカッと開かれた状態になっていた。

受け取るそのコンマ数秒の間。 差し出された紙面に並んでいる数字が、ダイレクトに僕の目に飛び込んできた。

5、5、5、5——。

鮮やかな「5」の列。 目標としていた、すべての教科における最高評価。それが、真っ白な紙の上で確かな実体を持ってそこに並んでいた。

「やったぜ」

受け取りながら、僕は心の中で叫んだ。 この1年間、誰に言われるでもなく必死に追い求めてきた結果。学年1位を目指すと決めて、納得のいかない評価には直談判までして守り抜いた、僕の「本気」の証明がそこにあった。

さらに、その場で別の証書も手渡された。「皆勤賞」だ。

1年間、1日も休まずに、夜の校舎へ通い続けた証。 慢性的な睡眠不足で中央分離帯に突っ込み、絶望の中にいたあの頃の僕には、想像もできなかった継続の記録だ。

「板野、よく頑張ったな」

前野先生は、いつも通りの少しチャラそうな、それでいてどこか「お前なら当然だろ」と言いたげな表情で、ニヤリと笑って僕を見た。そのサバサバとした労いの言葉が、かえって僕の努力を当たり前のこととして認めてくれた気がして、誇らしかった。

成績優秀者としての表彰も、そのまま教室で行われた。 クラスメイトたちが注目する中、名前を呼ばれて前に出る。大きなステージでの表彰とは違うけれど、毎日一緒に授業を受けてきた仲間たちの前で賞状を受け取るのは、心の底から湧き上がるような確かな手応えがあった。

手渡された通知表と賞状を両手で持ち、自分の席へと戻る。 32年間生きてきて、成績がオール5だったことなんて、ただの一度もなかった。 16歳で投げ出した高校。あの頃の僕にとって、通知表は「自分のダメさを突きつけられる紙」でしかなかった。それが今、31歳で入り直した定時制高校で、誇らしい「5」の列となって手元にある。

帰宅して、いつものようにあやちゃんに報告した。

「オール5だったよ。皆勤賞ももらえた」

「すごいねー、頑張ったもんね」

あやちゃんはいつものニコニコ顔で、まるで当たり前のことのようにそう言ってくれた。 特別なご馳走があるわけじゃない。けれど、この人に最高の結果を報告できることが、この1年間、僕を突き動かしてきた一番の原動力だった。

中卒でトラックを降りて、31歳でまた学校の椅子に座る。 その選択をした時、周りには「今さら」と言う人もいたかもしれない。僕自身、その道がどこへ続くのか、不安がなかったわけじゃない。

でも、手元にあるオール5の通知表と、一回も休まなかった皆勤賞の重みが、一つの答えを出してくれた気がした。

「やり直すのに、遅すぎることはない」

自分の価値を、自分で証明できた。それが何よりの報酬だった。

2年生になったら、今度は僕が先輩になる。 新しく入ってくる後輩たちに、この「やり直しの手応え」を背中で見せていきたい。

1年生、完。 最高に充実した、32年目の春だった。