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ep.28 1年生

先生ですか?

放課後の放送室。 アンプから響く、重たいギターの音。 一人で練習に耽る僕の背後に、不意に気配を感じた。 振り返ると、そこには一人の女子高生が立っていた。

「……誰ですか?」

彼女の瞳には、明らかな困惑。 放課後の部室。ギターを抱えた、見知らぬ「おじさん」。 客観的に見れば、不審者だと思われてもおかしくない光景だ。

「板野です」

「えっ。先生……ですか?」

タイトル通りの、お決まりの質問。 僕は苦笑いを浮かべ、いつもの「真実」を口にする。

「いいえ。一年生です」

「え……。何歳ですか?」

「31歳です」

驚きで固まる彼女。彼女は「さっつん先輩」。僕より二つ上の、三年生だ。けれど、実年齢は僕の方が一回り以上も上。見た目は「先生と生徒」。立場は「先輩と後輩」。このあべこべな関係が、僕たちのスタートラインだった。

さっつん先輩は、しばらく部室に顔を出していなかった「幽霊部員」だったらしい。 けれど、僕の正体を知ると、彼女は好奇心全開で質問をぶつけてきた。 圧倒的な愛嬌。そして、ディズニーへの熱いこだわり。 一通り僕を「検分」し終えると、彼女は満足げに笑った。

「面白いね」

その一言から、不思議な時間が動き出す。 幽霊部員だった先輩が、僕と一緒に活動を再開することになった。 まずは、さっつん先輩と僕の二人きりのユニットから。

現役女子高生の先輩と、31歳の新人。 噛み合わないようで、不思議と波長が合う二人。 静かだった放送室に、新しい、そして少し歪な音が重なり始めた。