Re:31歳、高校生活はじめました
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ep.31 1年生

レー

遠足に続いて訪れた二つ目の大きなイベント、それは「スポーツ大会」だ。

全4学年、約200名の生徒が、ビーチボールバレー、大縄跳び、およびドッジボールの3種目でクラスのプライドをかけて競い合う。夜間定時制の静かな校舎が、この日ばかりは一転して熱狂の渦に包まれる白熱のバトルイベントだ。

各クラスからは2名のスポーツ大会委員が選ばれることになっていて、僕はクラスの代表として委員を引き受けていた。

ある日の放課後、大会の運営を話し合うために各クラスの委員が集められた。議題の一つは、大会全体のトップである「委員長」を決めることだ。

当然ながら、この手の委員長をやりたがる生徒なんて一人もいない。 担当の先生が前に立ち、「委員長に立候補する人は挙手してください」と全体に求めた。

……沈黙。

誰も目を合わせようとせず、教室には気まずい時間が流れる。 僕は最初、黙っていた。「こういうのは、10代の若い子が経験としてやったほうが良いよな」と考えていたからだ。

けれど、10秒、20秒……30秒。 いつまで経っても、ピクリとも誰の手も上がらない。これではいつまで経っても決まらないし、会議も進まない。僕は見かねて、「誰も手を挙げないんなら、もうしょうがないな」という、どこか投げやりな消去法のような気持ちで、ゆっくりと右手を挙げた。

「……はい、僕がやります」

その瞬間だった。先生が待ってましたとばかりに口を開いた。

「あぁ、板野くん。君は1年生だし……実は、先生から推薦したい子がいるんだ。だから、譲ってくれないかな?」

……絶句した。

「あ、そうですか。……じゃあ、下げます」

僕は無言で手を引いた。 その瞬間、頭の中で一つの答えが弾けた。

(……あぁ、なるほど。こいつは出来レースだ!)

最初から委員長にする生徒は決まっていたのだ。にもかかわらず、なぜわざわざ「自主的な立候補」を募るような真似をしたのか。

僕の予測はこうだ。 委員長になる予定だったのは、おそらく就職活動を控えた上級生。これまでの学校生活で目立った実績がなかったその子に、調査書に書けるような「実績」を作ってあげたかったのだろう。

けれど、教員が強引に指名すると「押しつけ」に見えてしまう。 だから、「誰もやりたがらないから手が上がらない」→「そこで先生が推薦する」という、生徒の自主性を尊重したかのようなシナリオを描いていたのだ。そこに、事情を察していない僕が、良かれと思って挙手してしまうという誤算が生じた。

「やるなら事前にその生徒と打ち合わせして、あらかじめ手を挙げさせておけよ。段取りが悪すぎるだろ」

一度上げた手を、みんなの前で「譲ってくれ」と下げさせられた。それは屈辱というより、あまりに稚拙な茶番に無理やり付き合わされたことへの苛立ちだった。自分の思い描いたシナリオのために、善意で手を挙げた人間の時間を平気で無駄にする。その無神経さと段取りの悪さが、社会人を経験してきた身としては何より我慢ならなかった。

(こいつ、本当に段取りが悪いな……)

仕事の現場なら、こんな不手際は到底許されない。そんな担当教員に対する呆れと、不信感。正直、せっかくのやる気を削がれたような気分だった。

スポーツ大会当日。 ビーチボールバレー、大縄跳び、ドッジボール。どの種目も想像以上の盛り上がりを見せた。 結局、僕のクラスは入賞を逃した。けれど、そんなモヤモヤを吹き飛ばすような、最高の結末が待っていた。

なんと、全学年が参加するこのガチンコバトルで、別のクラスの1年生たちが見事に総合優勝を飾ったのだ。

上級生や教員たちの「大人の事情」や、見苦しい段取りなんてどこ吹く風。 純粋に、圧倒的な団結力で勝利を掴み取った1年生たちの姿。

目の前で喜ぶ1年生たちの笑顔を見ていたら、あの茶番で濁ってしまった心も、少しだけ救われたような気がした。

つづく →